業際は「ぎょうさい」と読みます。
業際
異なる事業分野にまたがること
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正直、行政書士の仕事について真剣に調べるまで、この業際という言葉を知りませんでした。
あなたはご存知でしたか。
行政書士の業際問題とは、弁護士や司法書士などの他士業と業務の境界線がどこにあるかという問題です。
法律で定められた範囲を超えた業務を行うと罰せられます。
その境界線ははっきり引かれているものと曖昧なものがあるようです。
微妙な境界に出くわした場合は、安全のため身を引いた方がいいと思います。
各都道府県知事による懲戒処分と都道府県行政書士会の処分があり、どちらもホームページなどで公表されます。
平成29年、30年の2年間における都道府県知事の処分11件中7件が業際問題によるものでした。(日本行政書士会連合会ホームページより)
資格をはく奪されなかったとしても、処分が明るみになれば、確実に仕事に影響するでしょう。
業際をしっかり認識し、業務に取り組むことが大切です。
行政書士の業務の対象
他士業との業際を見ていく前に、行政書士の業務を確認してみましょう。
行政書士法によると、
要件1 他人の依頼を受け、
要件2 報酬を得て、
1)官公署に提出する書類を作成すること
2)権利義務に関する書類を作成すること
3)事実証明に関する書類を作成すること
4)官公署に提出する書類を提出する手続き及び許認可に関する聴聞の手続き行為、および許認可に関する審査請求等の書類の作成、手続きの代理を行うこと。
ただし、他の法律で制限されているものは除く。
ちょっと端折ってますが、だいたいこんな感じです。
問題となるのは、ただし書きの部分です。
他の法律というのは、弁護士法とか司法書士法とか他士業の法律です。
したがって、他士業の業務範囲を知らなければ、行政書士の業務を理解することはできないというややこしい話になっているわけです。
行政書士と弁護士の業際
弁護士の職務(行政書士法では業務と書いてますが、弁櫛法では職務と書いている)は、
1)訴訟事件に関する行為
2)非訟事件に関する行為
3)行政庁に対する不服申し立て事件に関する行為
4)その他一般の法律事務
5)弁理士の事務
6)税理士の事務
分かると思いますが、行政書士の業務と最も競合するのは、4)ですね。
何かこれを読むと全部弁護士の仕事みたいな感じがしますけど、いわゆる許認可にかかわる分野は行政書士の独占業務と言われています。
つまり、権利義務、事実証明に関する書類は、弁護士職務と衝突する可能性があり注意を要します。
また、事件性つまり紛争性がある場合は、行政書士は手を出してはいけません。
依頼を受任していたとしても、紛争性が明らかになれば速やかに辞任すべきです。
たとえば、自動車事故の示談において、当事者同士が納得して和解した場合、それを証明する書類の作成はセーフだと思いますが、当事者同士の争いがある上での和解のための仲裁行為はアウトだろうと思います。
早め早めの判断が必要です。
気をつけましょうね。
行政書士と司法書士の業際
司法書士法によると、司法書士の業務は以下のとおりです。
1)登記又は供託に関する手続きについて代理すること
2)法務局等に提出する書類の作成
3)法務局等に対する登記又は供託に関する審査請求の手続きについて代理すること
4)裁判所又は検察庁又は法務局等に提出する書類を作成すること
5)簡易裁判所の訴訟を代理すること
6)民事紛争で目的価額が140万円未満の訴訟を代理すること
行政書士の業務とのかかわりについては、登記に関する点です。
登記は司法書士の独占といわれてますが、登記に関することで処罰を受ける行政書士は毎年のように見受けられます。
実際には、行政書士が登記申請の代理を行っていることがよくあることという人もいます。
見てみぬふりをしているようですが、明らかなリスクですから避けるべきです。
登記申請の代理は司法書士に任せましょう。
行政書士と社会保険労務士の業際
社会保険労務士法は行政書士法から分離独立した法律だそうです。
ということは、社会保険労務士の業務は元は行政書士の業務だったということでしょう。
このことだけを見ても社会保険労務士との業際につては要注意といえます。
社会保険労務士法に規定された業務をまとめると下記のようになります。
1)労働および社会保険諸法令に基づき行政機関に提出する申請書等の書類を作成すること
2)1)で作成した書類の提出手続きを代行すること
3)労働社会保険諸法令に基づく新政党を代理すること
4)3)の申請に係る行政処分等について主張、陳述の代理をすること
5)あっせん代理
6)労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成すること
7)事業の労務管理等、労働社会保険諸法令に基づく相談業務と指導業務
社会保険労務士の業務は、基本的に労働・社会保険会計ですが、1)と6)は書類作成業務なので、行政書士の業務と重なっていそうです。
1)の申請書の作成は社会保険労務士の独占業務ですが、6)の帳簿作成は行政書士も競合的に作成できるという話もあります。
これを積極的に行った方がいいという意見と、微妙な業際には触れるべきではないという意見があります。
積極的に行うべきというのは、行政書士としての仕事の範囲を狭めないために既成事実を積み上げていくということだと思います。
しかし、これから開業しようというあなたに関して言えば、とりあえず慣れるまでは避けるようにした方が安全です。
行政書士と税理士の業際
税理士の仕事は、次のとおりです。
1)税務代理
2)税務書類の作成
3)税務相談
4)上記に付随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行その他財務に関する業務
問題となるのは4)でしょうね。
「付随して」ということなので、税理士は、1)から3)に付随せず、独立して業務を行うことはできないということになりそうです。
これが行政書士の事実証明に関する書類に該当します。
行政書士として会計帳簿を請け負っているのはこういうことです。
ただし、税務に関わることにタッチしてはいけません。
行政書士と公認会計士の業際
公認会計士の業務は次のとおりです。
1)財務書類の監査
2)財務書類の証明
3)財務書類の作成
4)財務書類に関する調査、立案
5)財務に関する相談
またまたでました財務書類です。
つまり3)は公認会計士、税理士、行政書士の三士の競合分野になります。
三士の分担としては、行政書士が事実証明の書類として財務帳簿を作成し、税理士がその書類により税務業務(申告とか)を行い、公認会計士が監査、証明を行う、というのが本来の形であろうと思います。
この形を認識していれば業際問題は解消できるのではないでしょうか。
行政書士と建築士の業際
行政書士と建築士の業務が重なることなどないように思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
建築士業務は次のようなものです。
1)建築設計
2)工事監理
3)建築工事契約に関する事務
4)建築工事の指導監督
5)建築物に関する調査
6)建築物に関する鑑定
7)建築に関する法令若しくは条例に基づく手続きの代理等
問題となるのは3)と7)です。
3)は行政書士の権利義務に関する書類に該当し、7)は行政書士の官公署に提出する書類に該当します。
つまり、3)と7)は行政書士と建築士が競合することになります。
行政書士と土地家屋調査士の業際
土地家屋調査士の業務は次のようなものです。
1)不動産表示登記申請手続き
2)1)に必要な土地の調査
3)1)に必要な家屋の調査
4)1)に必要な土地の測量
5)1)に必要な家屋の測量
全て行政書士の業務と関係ないような気もしなくもないですが、関係します。
1)に関しては、司法書士と競合していますが、それ以外において、調査や測量のための申請手続きは行政書士と競合することになるようです。
行政書士と海事代理士の業際
海事代理士の仕事は、船舶、船員、海上輸送等の申請、届出、登記等の手続きやそれらに関する書類を作成することです。
海の行政書士とか海の司法書士などと言われる存在です。
上記の業務は海事代理士の独占で行政書士の入り込む余地はありませんでした。
しかし、一部の業務は法改正等により行政書士も行うことができることになっています。
理解しないで手を出すのはやめた方がいいですが、内航海運業法及び船員職業安定法に元ずく手続きは、行政書士も行うことができるとされています。
以上、他士業との業際を確認していきましたが、業際問題に関して実務で迷うことがあるときには、あやふやなまま受任するのではなく、行政書士会等に相談して慎重に進めた方がいいでしょう。
日頃から、弁護士や司法書士等と良好な関係を築いておくことで、役割分担を明確にしておくことを心がけましょう。